私が次に訪れた国は、お年寄りで溢れていました。
* * * *
街で立ち寄った可愛い雑貨屋のお姉さんが、
お年寄りは皆、この国で1番高い塔に集団で暮らしていることを教えてくれました。
「今は調度、買い物の時間なんですよ」
お店や道路はお年寄りで埋め尽くされていました。
彼等はとてもゆっくり歩くので、車や自転車は通行留めになります。
そこに住む若者は下の街で各々素敵な店を持っていました。
甘いお菓子にお肉やさん、星釣り道具店に画材店。
お店は小さな木製のロッジのようでいくつも密集し、
それら全てが細い木の通路や階段で繋がっています。
だけど不思議なことに、どこにも大人が見当たりません。
私はすぐそこの店で買った、小麦粉を練って薄く焼き
肉と甘い果物を巻いた食べ物を店先で食べながら、町を眺めていました。
空はもう夕焼けです。
静かな時間が流れます。
すると、どこからともなくオルゴールの音色が聞こえてきます。
あちらこちらにいたお年寄りが、列をなして塔へと向かい始めました。
どうやら、”買い物の時間”が終わったようです。
塔の形はデコボコで、お城みたいだったり、木の小屋みたいだったり
可愛い出窓がついてたり、一部は壊れたままで
まるで家々をそのままくっつけただけのようでした。
ふと列に目を戻すとゆっくり歩く人込みの中に、
足の悪いお婆さんを自分の胸に抱えて歩くお爺さんがいました。
「婆さん、辛くないかね」
「えぇ、辛くないわ。お爺さん」
「婆さん、また今日も一日、一緒に過ごせて、私は嬉しいよ」
「私もよ」
だけど、お婆さんはあちらこちらのお爺さんと目を合わせては
嬉しそうに微笑んだり手を振ったり、全然話しを聞いていません。
お爺さんはお婆さんと目を合わせるように抱え直します。
「聞いてるのかね?」
「え?えぇ、聞いていますよ。
ところで、お爺さん、
あなたはいつ死ぬの?」
そういうお婆さんの瞳はまるで無邪気で、
お爺さんが1番好きであろう微笑みを向けています。
お爺さんはシワだらけの目尻や頬ををくしゃりと持ち上げて、
ここにいるどのお年寄りよりも優しい眼差しで言いました。
「私は死なないよ」
私は大勢のお年寄りが帰っていく背中を見ていました。
不思議な心持ちで、いつまでも、見送りました。
もう空には星がぽつぽつと灯を点しています。
私はうっかり、今夜の宿を探し忘れていました。
夜が早いこの国では、もうお店がどこも閉まっていて、
下に住む若者達の小さな家明かりと、
不恰好な高い高い塔が、一際光り輝き
まるでクリスマスツリーのように国を照らしていました。
以下あとがき。
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